「飲み方研究家」にして「そそぎ手」のサイトウです。
前回、僕自身が飲みに行ったり、お酒をご提供する仕事に携わる中で、「飲み方」を研究するに至ったお話を書かせていただきました。
今回は、その中でも特に「飲み方」に強く興味を惹かれるようになったきっかけを2つ紹介したいと思います。
2つの内訳は、ちょっとおしゃれな話が1つ、下町ならではの話が1つ。
下町編はパンチが強いので、今日はおしゃれな方を書きます。わたせせいぞう氏のイラストをイメージしながら読んでいただけると幸いです。
僕がまだカウンターに立ち始めて2年目の頃、外国人のお客様(日本語は堪能)がいらっしゃいました。
カウンターに着席なさったお客様はメニューブックを閉じて、「メニューにないカクテルも頼めますか?」とおっしゃいました。
僕「はい、もちろん」
お客様「サンブーカありますか」
僕「はい、ございます」
お客様「コーヒー豆はありますか」
僕「ございます」
お客様「じゃあサンブーカに、コーヒー豆を3つ入れてください」
僕「・・・はい、コーヒー豆を3粒ですね」
お客様「で、火を着けてください」
僕「?!」
それまでも火を着けて完成させるカクテルをご提供する機会はありましたが、サンブーカにコーヒー豆を3粒(数粒ではなく、しっかりと3粒指定)入れて火を着けるオーダーには戸惑いました。
これは、スタンダートカクテルと言える程一般的ではないですが、サンブーカ・コン・モスカ(Sambuca con mosca)という南イタリア発祥のカクテルで、ハーブが効いた甘いサンブーカにコーヒーの香りがほんのり移って、食後に好んで飲まれています。コーヒー豆をカリッと噛んで苦味を楽しむこともできます。
カクテル修行を続ける過程で、後日改めてサンブーカ・コン・モスカと再会するのですが、このカクテルが特別に印象深いのは、ご提供後のお客様との会話にあります。
お客様「このコーヒー豆、何だかわかりますか?」
僕「いえ、思いつかないです」
お客様「蝿です」
僕「え、あの蝿ですか?」
サンブーカ・コン・モスカの「コン・モスカ」は直訳すると「蝿がとまった」という意味です。
食べ物や飲み物に「蝿」って名前を付けるなんて、日本では考えられないので「面白いなぁ」とお酒の世界に広がりやときめきを感じました。
その出来事以来、カクテルのレシピを習得するだけでなく、「なぜこの材料を使っているんだろう」「なぜこの名前なんだろう」と意識するようになりました。カクテルが誕生した場所や時代背景などが色濃く関わっていて、面白いものがいくつもあります。
例えば、スタンダードカクテルのブラッディ・メアリー(Bloody Mary 直訳すると「血まみれのメアリー」)は、即位後にプロテスタントの処刑を強行しまくったイングランド女王メアリー1世から名付けられています。
ブラッディ・メアリーと言えば、僕はセロリソルトを効かせたこだわりのレシピがあり、「そそぐ」ではぜひご提供したいと思っています。ご期待ください。
次回は、飲み方を研究するきっかけ下世話編、いえ下町編を書きます。
そそぐHP: http://sosogu.jp