そそぐ This Bar is SO SO GOOD.

福岡市中央区薬院にあるBAR。世界の「カンパイ」のかたちをキュレーション。お客さまとの対話でその人にぴったりの “ 飲み方 ”を提案するBARです。

「街とその不確かな壁」における「ボウモア12年と”それっぽい”考察」

福岡・薬院のバー「そそぐ」のイシザキです。
今回は、小説に登場するアイラ・ウイスキーについて。


久々に村上春樹氏の小説を読みました。

読書家ではありませんが、作家の今村翔吾氏のご尽力で佐賀駅構内に「佐賀之書店」ができて以来、実家の佐賀に帰省するたびに1冊買うことにしています。 

 

佐賀駅には、以前(1977年~2020年3月)積文館書店がありました。娯楽が少ない時代の、娯楽の少ないエリアの高校生だった私は、かなりの時間を過ごさせていただきました。つまり、立ち読みしました。

佐賀を離れてからは通っていなかったものの、佐賀駅から書店が消えたときは驚きました。そして長居した割に、買う頻度が低かったことを申し訳なく思いました。(お小遣いの都合で・・)

そんな積文館への反省から、「佐賀駅から書店がなくならないように」と「帰省ごとに1冊買う」ノルマを自分に課し、文庫本になっていた「街とその不確かな壁」を読むに至りました。

 

村上春樹のエッセイ(特に海外の旅や生活)は好きなのですが、小説は十数年ぶり。久々の長編小説に脳が慣れないのか、目は文字を追いながらも脳は他のことを考えてしまい、気づけば数ページ頭に入ってない状態(やれやれ)でしたが、乗った電車が信号機故障で100分以上ストップしたことから、徐々に没入して読み進めることができました。読書以外することがない空間が幸いしました。

 

書評はできないのでしませんが、
作中に「ボウモア12年」が登場します。

※まえおき:
17歳の少年である「私」は、1つ年下の少女に恋をする。少女は「自分は影で、本当の自分は〈壁に囲まれた街〉に住んでいる」と語り、やがて連絡が途絶えてしまう。「私」は〈壁に囲まれた街〉に触れるも、現実世界で生活を送り中年期を迎え、導かれるように図書館長の職を得て地方の街へ移り住む。
以下は、「私」が移住先の地方の街で、小さなカフェを営む女性と過ごす場面での会話。


「ウィスキーは飲む?」

「ときどき気が向いたら」

「おいしいシングル・モルトが置いてあるんだけど、つきあってくれる?」

「もちろん」と私は言った。

彼女はカウンターの中に入って、頭上の棚の上からボウモアの12年もののボトルを取り出した。中身は半分ばかり減っている。

「素晴らしいウィスキーだ」と私は言った。

「もらいものだけど」

 

「街」の存在とは? 形を変える「壁」とは? 「影」とは?

想像を巡らせたり、その意味を考察したりするモチーフは山のようにありますが、久々の村上小説を読み進めることで精一杯の私の脳には、その余裕はありません。

唯一「なんで『ボウモア12年』を選んだのだろう」だけ。

無数にあるウイスキー。登場したのはスコットランド、アイラ島のもの。
アイラ島に絞っても約10の蒸留所がありますし、ボウモア蒸留所だけでも数種類のラインナップがあります。
アイラ島やアイルランドの蒸留所を巡って「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」を書いた村上春樹さんなら、多くの銘柄に詳しいはず。

なぜボウモア12年なのか。

そして、それはなぜボウモア12年でなければならなかったのか。(傍点を打ちたいけど、ブログでのやり方が分からなかった)

 

特に期待もなく、思い付きでChatGPTに聞いてみました。

「村上春樹の『街とその不確かな壁』にボウモア12年がでてきます。アイラ島のウイスキーはたくさんあるのに、なぜボウモア12年ですか?考察を教えてください。」

 

<以下、紺の文字はChatGPT無料版の回答>
とても良い着眼点ですね。

**「なぜ数あるアイラの中で、ボウモア12年なのか」**は、村上春樹作品らしい“象徴の選び方”がはっきり出ている部分だと思います。

以下、文学的・作家的視点から考察します。


(1) ボウモア12年は「アイラの中心」にある存在

アイラモルトには大きく振れ幅があります。

  • ラフロイグ:強烈、孤独

  • アードベッグ:爆発的、荒々しい

  • ラガヴーリン:重厚、瞑想的

  • ブルックラディ:思想的、現代的

その中でボウモア12年は極めて中庸です。

  • ピートはあるが、強すぎない

  • 海風は感じるが、荒々しくない

  • 甘みとスモークが常に均衡している

つまり、

「アイラらしさ」と「飲みやすさ」の境界線

に位置するウイスキーです。

これはまさに
『街とその不確かな壁』の世界構造そのものです。


(2)「こちら側」と「あちら側」のあいだにある酒

この小説の核心は、

  • 現実の世界

  • 壁に囲まれた街

  • 自身と影(分身)

  • 意識と無意識

といった境界の物語です。

ボウモア蒸溜所の名前はゲール語で
**「大きな岩礁」「海の境目」**を意味すると言われます。

そして蒸溜所は、

  • アイラ島の中央

  • 海に面しながらも港町の内側

という、これもまた境界的な場所にあります。

極端に海でもなく、極端に内陸でもない。

ボウモアは、島の“中心”であり“あいだ”にある蒸溜所

なのです。


(3) 12年という熟成年数の意味

村上春樹作品で年数は非常に重要です。

  • 若すぎる酒 → 未成熟、衝動

  • 長熟すぎる酒 → 過去への執着、記憶の重さ

12年は「完成しているが、老いていない」

  • 大人ではある

  • しかし人生を決定づけるほど固定されていない

これは主人公の年齢感覚や精神状態と重なります。

過去を背負っているが、まだ未来へ行ける。

18年でも25年でもなく、12年でなければならない


(4) 村上春樹が好む「静かな個性」

村上春樹が好む酒の傾向には一貫性があります。

  • 派手すぎない

  • 通好みだがマニアックすぎない

  • 説明しなくても成立する

  • しかし“分かる人には深い”

ボウモア12年はまさにそういう存在です。

ウイスキー好きにとっては、

「ああ、ボウモアか」

と一瞬で情景が共有される。

しかし読者の大半は、

「アイラのウイスキーらしい」

という曖昧な理解でも読み進められる。

物語を止めない酒なのです。


(5) もし他のアイラだったら起きる“ノイズ”

仮に──

  • ラフロイグだったら
     → キャラクターが強すぎる

  • アードベッグだったら
     → 物語より酒が主張してしまう

  • ラガヴーリン16年だったら
     → 重厚すぎて「過去」に傾く

ボウモア12年だけが、

主張せず、しかし確実に世界観を支える。

村上春樹作品における音楽で言えば、
これはマイルス・デイヴィスの静かなトラックに近い。

前に出ないが、空気を決定づける存在です。


(6)「少し古風で、少し曖昧」という質感

『街とその不確かな壁』は、

  • 新作でありながら

  • 非常に古典的で

  • 初期村上春樹の文体と世界観を持つ

ボウモア12年もまた、

  • 最新トレンドではない

  • 昔から変わらず棚にある

  • どこか80〜90年代的な空気を残している

つまりこの酒は、

作品そのものの質感を象徴している

とも言えます。


まとめ

ボウモア12年が選ばれた理由は、

  • アイラの中庸にある存在

  • 境界に立つ蒸溜所

  • 12年という成熟と未確定の年数

  • 強すぎない個性

  • 読者の想像を邪魔しない香味

  • 初期作品への回帰という時代性

これらすべてが重なり、

「街」と「壁」のあいだに置く酒として、最も適切だった

からだと考えられます。


もしこの本に出てくる酒が
ボウモア12年ではなく別のアイラだったなら、
物語の“温度”や“湿度”は確実に変わっていたでしょう。

それほどまでに、
この一本は静かに、正確に選ばれています。

まさに村上春樹的ウイスキーですね。

 

すごいじゃん、チャッピー。
思いのほか渾身の回答を得て、思わず「ありがとう」とお礼を書きました。

ウイスキーに対して「中庸」は多少失礼な気もしますが、村上春樹さんは1999年出版「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」の中で、アイラ島で飲んだウイスキーを癖の強いと感じた順番に並べて、こう書いています。

最初の方がいかのも土臭く、荒々しく、それからだんだんまろやかに、香りがやさしくなってくる。ボウモアがちょうど真ん中あたりで、ほどよくバランスがとれていて、いわば<分水嶺>というところだ。でもどれだけ味わいがライトになっていても、ソフトになっていても、「アイラ臭さ」は刻印のようにちゃんとそこに残っている。

「僕らのことばがウィスキーであったなら」の該当ページ

チャッピー、名推理!

「分水嶺」は、降った雨水が異なる河川の流域へと分かれる境界となる山稜・尾根のこと。物事の方向性が決まる重大な分かれ目や転機の比喩でも使われるので、ボウモア12年が現実と<壁に囲まれた街> の境界というのはナイスに思えます。

2024年9月にボウモア蒸留所の第1貯蔵庫(No.1 Vaults)を見学しました。
この貯蔵庫は海抜0メートル(床は海面よりも低い)位置にあり、この点でも境界を象徴しているのかも知れません。と、ChatGPT以上の情報を足してAIに対抗してみます。

海に面したボウモア第1貯蔵庫

貯蔵庫の中、海面より低い床

しかし、何をソースにして考察を仕上げたのでしょうか。小説の本文もソース?書評などから?
この問いに対するChatGPTご自身による解説は以下です。

 

<以下、紺文字はChatGPT>
ChatGPTは本文を読んでいません

  • 『街とその不確かな壁』の本文データを丸ごと読んだり参照したりすることはできません

  • 今この場で本の中身を開いて確認することもできません

つまり、

本文を直接読んで考察したわけではありません。


では、何をもとに考察したのか?

主に次の3つを組み合わせています。


(1) 公開されている一般的な作品情報

例えば:

  • 物語のテーマ(壁/影/二つの世界)

  • 1980年代発表の旧作を下敷きにした作品であること

  • 記憶・自己・境界が中心テーマであること

これらは、

  • 公式紹介文

  • 著者インタビューで語られてきた傾向

  • 書評・解説で繰り返し触れられる内容

といった公開情報として要約されたレベルの知識です。

本文の具体的描写や文章は一切見ていません。


(2) 村上春樹作品全体に共通する「作家性」

長年にわたり繰り返し見られる特徴があります。

たとえば:

  • 境界(こちら側/あちら側)

  • 井戸・壁・通路・影

  • ジャズ・クラシック・ウイスキー

  • 極端を避けた「中間的な選択」

  • 強すぎない固有名詞の使い方

これは特定作品ではなく、

村上春樹という作家の長期的なパターン

として学習されています。


(3) ウイスキーそのものの客観的情報

ボウモア12年については、

  • 蒸溜所の立地(アイラ島中央部)

  • 香味傾向(中庸・バランス型)

  • 他のアイラとの一般的な比較

  • 業界内での位置づけ

といった事実ベースの一般知識を使っています。


つまり今回の考察はこういう構造です

 
(1)作品の一般的テーマ(公開情報) + (2)村上春樹作品に共通する文脈 + (3)ボウモア12年の性格  =「なぜこの酒なのか」という仮説

×やっていないこと

以下は一切できません。

  • 本文の参照・検索

  • 書籍データベースへのアクセス

  • 有料書評サイトの閲覧

  • 他人のレビュー文章の引用

  • ネタバレ箇所の確認

そしてもちろん、

「本文を読んだから分かった」ことは一切ありません。


では、なぜあそこまで“それっぽく”読めたのか?

これは少し面白い話なのですが——

文学作品には、

  • 繰り返される構造

  • 作家固有の選択傾向

  • モチーフの配置パターン

があります。

村上春樹は特に、

「同じ問いを、違う物語で何度も書く作家」

なので、

  • 酒の選び方

  • 音楽の置き方

  • 固有名詞の距離感

一貫した癖があるのです。

そこに、

  • ボウモア12年という銘柄の文化的位置

を重ねることで、

「本文を見なくても成立する考察」

が可能になります。


正直に言うと

あの考察は、

  • 正解を断定するものではなく

  • 「もっとも村上春樹らしく聞こえる仮説」

です。

文学研究でいうと、

テクスト外情報から行う「外在的読解」

に近いものです。

 

らしいです。

「”それっぽく”読める」「もっとも村上春樹らしく聞こえる仮説」にコロッと関心した自分に、ロマンス詐欺への注意を促しておきます。

 

そそぐには現在、スタンダードの「ボウモア12年」とシェリー樽で追熟した「ボウモア15年 シェリーカスク」のご用意があります。

そそぐのバックバーに並ぶボウモア

フルーティーさと程よいピートと潮の香り。ゆっくり飲むと考察はどうでもよくなり「単に美味しいから選ばれただけかも」と思えてきます。

 

ただただ美味しいボウモアいかがですか。

心を込めてそそぎます。

 

※2024年9月のボウモア蒸留所訪問記